中学受験をテーマにした小説、藤岡陽子さんの「金の角持つ子どもたち」を読みました。
タイトルにもなっている「金の角持つ子ども」というのはストーリーに出てくる塾講師の「極限まで努力し続けた子どもには金の角が生える」という言葉から。
「金の角」が出てくるということでファンタジー小説ともいえるのですが、私はそのストーリーとは別のところで、この小説はファンタジーだなぁと思うところがあったので、全体のストーリーに対する感想は横に置いておいて、主人公の小学6年生の男の子・俊介について書くことにします。
ネタバレというか個人的な見方を含みますのでまだ読んでいない、これから事前情報なしに純粋に小説を楽しみたい方は多分このブログ、読まないほうがいいと思います。
読み終わってから、気になったら読みに来てくださいませ。
あらすじ(内容):「金の角持つ子どもたち」
小説の裏表紙にあったあらすじを引用します。
「サッカーをやめて、塾に通いたい」小6になる俊介は、突然、両親にそう打ち明ける。日本最難関と言われる中学を受験したいのだ、と。
難聴の妹・美音の小学校入学を控え、家計も厳しい中、息子の夢を応援することを両親は決意。
俊介の塾通いが始まる。
だが、彼には誰にも言えない"秘密"があって……。
人は挑むことで自分を変えることができる。未来を切り開こうと奮闘する人々を描く、感動の長編小説。
以上、引用。
こんな話です。
登場人物・俊介の存在がファンタジー
この本は小説ですのでもちろんストーリーはフィクションですし、登場人物も実在しない架空の存在です。
主人公となる小6の俊介は、子供に中学受験をさせたいと思っている親の思い描く理想の息子すぎて、 彼の存在がファンタジーなんだなあというのが全体を通しての私の感想でした。
俊介はこんな子です↓
自分で中学受験をしたいと言い出す
子供に中学受験をさせたいと思っている親は、良さそうな学校の文化祭などのイベントに子供と一緒に行って子供に「楽しそう」と思わせたり、普段の会話の中で子供の好きなことと将来のことを中学受験でつなぐような筋道を提示してあげたり、塾のテストを受けさせたりしてやんわりと中学受験のコースへ誘導するものです。
その上で子ども自身が「中学受験をしたい。俺、○○(最難関校だったりする)を目指したい!」
とか言い出して、心の中でガッツポーズ的なことが多いのではないかと思うんですよ。
親がまったく中学受験に興味がないのに子供から中学受験をしたいと言い出すようなことはなかなかない状況だと思いますし、でも「親にやらされて中学受験」をしているという状況よりも「子供が自分で中学受験をしたいと言い出すのが理想的」であるのはいうまでもありません。
妹思いの兄
公式のあらすじにも「難聴の妹」そして、「息子の夢」「秘密」などと書かれているので、予想はつくと思いますが、まさにその通り妹思いの兄です。
5学年差の兄弟、もちろん世の中にはこんな感じの妹思いの小6にしてできた人格の兄もいるでしょうが、 5学年離れていてもしょうもないことで喧嘩したり、うっとおしがったり、やきもち焼いたりそんなのって兄弟だったらよくあることだと思うんですけどね。
こんな妹思いの兄がいたら理想的だなぁ。
難しい問題にも果敢に主体的に取り組む
今まで学校以外の勉強を全くしていなかった俊介が、小6から塾に入って受験勉強をすることになります。
自分から何時間も机に向かい、難しい問題にも投げ出さず諦めず取り組み、少し停滞はするものの最終的には成績を上げ最難関にも手が届くかもというところまで成績を上げていきます。
1日だけ立ち止まるけど、ずっと前向きにがんばり続ける。そんな姿勢が理想的すぎます。
こんなに頑張ってる姿見たら、親も応援するしかないですね。
受験勉強に関する親子のバトルなし
俊介の母は、家庭の事情で中卒。
清く貧しく美しい母。思いやり溢れて頑張り屋さんで、なんというか「正しい母」です。
俊介の塾の費用のために仕事を始め、文句も言わずに家族や自分の目標のために頑張ります。
塾代は母の給料から出すのですが、受験勉強のサポート(プリント整理など)はしている様子は小説には書かれず、もちろん「勉強しなさい!」的な親子のバトルもなし。
俊介君は、親にも何も言われてないのに自ら何時間も机に向かって努力してますからね。
そんな息子だったらバトルになりようもないか…。
理想的中学受験生・俊介
自分から中学受験をしたいと言い出し、親に言われなくても自ら何時間でも机に向かって勉強し難問にも投げ出さず、最終的に最難関にも通用するぐらい成績を上げる。
そして妹思いのいい兄。お母さんと勉強の事でバトルになることもなく、中学受験を終える。
ねぇ、こんな小6、いる?
俊介くんは日本全国に点在する全中受親が生み出した「理想の中学受験生の息子」の観念集合体・ファンタジー的存在では、なかろうか。
こんなに頑張り屋さんで優しく、家族思いの息子がいたら、絶対に応援したくなるな〜っていう理想。
問題集を前にダラダラと勉強しそうでしない息子の向こう側にいる、実在しない「やる気があって、がんばり屋さんの理想の息子」。
多分他の子はこんな感じなんじゃないの?って親が勝手に作り出した「理想の息子」がぼんやりと頭の片隅にいるからこそ、目の前の息子のやる気のなさにイライラする。
成績の事で怒ってるんじゃないの!その態度に対して怒ってるのよ!
ってなるときに、頭の片隅に俊介くん、でてこない?
俊介くんは、ファンタジー。
俊介くんは、フィクション。
ってことを全中受親は、心にとめ「金の角持つ子どもたち」を読むべきだと思う。
まだ私は、小6の中学受験生をもったことがないからわからない。
でもなんとなくわかるのは、きっと現実の小6の息子は、こんなんじゃない。
でも、きっと大丈夫、一部の子を除いてほとんどみんなそんな感じだろうから。
「金の角持つ子どもたち」は前向きでストレートなストーリーゆえに中学受験生である子供自身が読んでもいいお話だな、と思いました。
一方、同じく中学受験をテーマにした小説「翼の翼」は子供に読ませる話ではないです。
でも、親は必読書だと思います。
▼「翼の翼」の心理描写が最高でした。
▼小6の夏から超難関を目指すドキュメンタリー